全国もち米図鑑② もち米の歴史と産地の秘密|北海道から九州まで、知られざる品種の物語
お正月のお雑煮、祝い事のお赤飯、つきたての柔らかいお餅。
日本人の暮らしに深く根付いているもち米ですが、実はその歴史や品種の違いを知る機会は意外と少ないものです。
- お餅はいつから食べられている?
- 糯と餅は何が違う?
- 産地によって味が変わる?
今回は、そんな疑問をひも解きながら、北海道から九州まで、日本のもち米文化を巡ります。

1. もち米はいつから日本にある?餅文化の歴史

前回の【全国もち米図鑑・第1弾】では、甘み・粘り・コシ・なめらかさなど、味や食感の特徴を持つ12品種を紹介しました。
第2弾では、もち米の歴史や品種改良、全国の個性豊かな13品種を紹介します。
餅の歴史は弥生時代までさかのぼる?
日本の稲作は、縄文時代の終わり頃から弥生時代にかけて広がっていったと考えられています。
餅がいつ誕生したのかは正確には分かっていませんが、公益社団法人 米穀安定供給確保支援機構では、弥生時代には餅が存在していた可能性を紹介しています。
少なくとも奈良時代には、餅にまつわる記録が残されていました。
奈良時代に編纂された『風土記』にも、餅が白い鳥になって飛んでいったという説話が登場します。
昔の人々にとって、餅は食べ物であると同時に、特別な意味を持つ存在だったのです。
餅は神様へのお供え物だった
お正月の鏡餅は、古くから続く餅文化の代表例です。
丸い鏡餅の形は、かつて神聖なものとされた銅鏡に由来するといわれています。
餅には生命力や長寿への願いも込められ、神様へのお供え物として大切にされてきました。
やがて祝い事や季節の行事でも餅を食べるようになり、日本各地にさまざまな餅料理が生まれました。
昔の餅つきは大仕事
今ではイベントとして親しまれている臼と杵の餅つきですが、昔は大勢の人手と力が必要な作業でした。
古くは縦に振り下ろす杵も用いられ、江戸時代には現在よく見られる横杵による餅つきが広まっていきました。
家族や地域の人が集まって餅をつく文化には、こうした長い歴史があります。
2. 「糯」「餅」「粳」って何が違うの?

もち米の品種名には「滋賀羽二重糯」「新大正糯」など、普段あまり見かけない「糯」という漢字が使われています。
実はこの漢字にも意味があります。
| 漢字 | 読み方 | 意味 |
|---|---|---|
| 糯 | もち・もちごめ | 粘りの強い米や稲 |
| 餅 | もち | 米などを加工して作る食品 |
| 粳 | うるち | 普段のご飯に使う、うるち米の性質 |
つまり、「糯」は原料となる米の性質、「餅」は食べ物の名前なのです。
ちなみに「糯」は米だけに使われる漢字ではありません。「糯粟(もちあわ)」という言葉もあります。
もち米を蒸して搗けば餅になりますが、同じもち米でも、炊けば赤飯やおこわになります。
漢字の違いを知ると、もち米と餅の関係が分かりやすくなりますね。
3. 北海道のもち米はなぜ進化した?品種改良の秘密
北海道は、全国でも有数のもち米産地です。
寒さの厳しい地域で安定して米を育てるため、長年にわたって品種改良が進められてきました。
現在では、冷めても柔らかさが長持ちする品種や、切り餅の加工に向く品種など、用途に合わせたもち米が栽培されています。
寒さに強く、美味しいもち米を目指して
例えば「きたゆきもち」は、北海道立上川農業試験場で開発された品種です。
寒さへの強さや収量の安定性に加え、餅やおこわの食味も重視して育成されました。
研究では、従来品種の「はくちょうもち」「風の子もち」と比較して、餅やおこわの食味が良好であることが確認されています。
北海道のもち米づくりは、寒さへの対応だけでなく、食味や用途に合わせて発展しているのです。
もち米専用の田んぼがある
もう一つ面白いのが、北海道の「もち米専用団地」です。
JAるもいの遠別地区・初山別地区などでは、もち米を集団的に栽培する専用団地を設けています。
これは、うるち米との交雑や混入を防ぎ、もち米の品質を守るための取り組みです。
普段食べるお米ともち米を分けて栽培することにも、品質を維持する大切な意味があります。
4. 全国もち米図鑑|歴史と特徴で楽しむ13品種
ここからは、第1弾で紹介していない13品種を取り上げます。
北海道の品種から、東北・関東・北陸の地域品種まで、それぞれの産地や誕生の背景を見ていきましょう。
北海道のもち米
① 風の子もち|粘りとコシが自慢の北海道産
北海道の代表的なもち米「風の子もち」。
粒張りや白さに優れ、餅にしたときの粘り、コシ、きめ細かさが特徴です。
北海道で安定した生産を支えてきた品種の一つで、餅の食感を楽しむ用途に向いています。
注目ポイント:粘り・コシ・きめ細かさ
② きたゆきもち|寒さに強く、冷めても柔らかい
北海道で開発された「きたゆきもち」は、耐冷性と食味を両立した品種です。
餅の白さが美しく、冷めても柔らかさと粘りが長持ちします。
赤飯やおはぎ、大福などにも向いています。
注目ポイント:柔らかさの持続・白さ・耐冷性
③ きたふくもち|切り餅や米菓に適した品種

「きたふくもち」は、餅が比較的早く硬くなる特徴を持つ北海道産もち米です。
餅を成形して切る工程では、この硬化の速さが役立ちます。
切り餅やあられなど、加工食品に向いた品種として開発されました。
注目ポイント:硬化の速さ・切り餅への適性
東北地方のもち米
④ たつこもち|秋田県を代表するもち米
秋田県で広く栽培される「たつこもち」。
秋田県のもち米生産を支える主要品種の一つで、県内の産地品種銘柄にも登録されています。
秋田の伝統的な餅料理や加工食品を知るうえでも注目したい品種です。
注目ポイント:秋田の主要産地品種
⑤ きぬのはだ|名前も美しい秋田のもち米
「きぬのはだ」は、秋田県の代表的なもち米の一つです。
「ときめきもち」などの新しい品種を開発する際にも、収量や食味、硬化速度を比較する基準品種として使われてきました。
品種改良の歴史を知るうえでも興味深い存在です。
注目ポイント:品種改良研究での比較基準
⑥ 酒田女鶴|山形・庄内に残る伝統のもち米
山形県庄内地方にゆかりのある「酒田女鶴(さかためづる)」。
現在も山形県の産地品種銘柄に含まれています。
長く地域に受け継がれてきたもち米として、庄内の餅文化や伝統品種を紹介する際に取り上げたい存在です。
注目ポイント:庄内地方の伝統品種
⑦ でわのもち|なめらかさと伸びが魅力
山形県で1966年に誕生した「でわのもち」。
きめが細かくなめらかで、伸びがよく、煮崩れしにくい特徴があります。
栽培面では難しさもありますが、食味のよさから地元で根強い人気を持つ品種です。
おすすめの食べ方:お雑煮・つきたて餅
⑧ こゆきもち|大福にも向く山形の品種
「こゆきもち」は山形県が育成したもち米で、2006年に県の奨励品種となりました。
白さに加え、生餅にしたときの伸びのよさが特徴です。
柔らかい餅菓子にも適しており、大福などへの利用が期待されています。
おすすめの食べ方:大福・柔らかい生餅
⑨ ときめきもち|柔らかさが長持ちする東北生まれ

農研機構が育成した「ときめきもち」。
秋田県の大潟村などでの栽培を想定して開発されました。
餅の食味が良好で、「きぬのはだ」より硬くなる速度が遅い特徴があります。
病気への強さや倒れにくさなど、生産面にも工夫が詰まっています。
注目ポイント:柔らかさの持続・栽培しやすさ
関東・中部・北陸地方のもち米
⑩ マンゲツモチ|関東のもち米文化を支える品種
茨城県などで栽培される「マンゲツモチ」。
関東のもち米を語るうえで取り上げたい品種の一つです。
農研機構の「やたのもち」などの育成研究でも、硬化特性を比較する品種として登場します。
注目ポイント:関東の地域品種・品種比較の基準
⑪ ふさのもち|千葉県ゆかりのもち米
千葉県のもち米品種「ふさのもち」。
地域の餅づくりを支える品種の一つで、全国のもち米を産地別に見ていく際には、関東地方の例として紹介できます。
注目ポイント:千葉県の地域品種
⑫ もちひかり|長野県のもち米
長野県などで栽培される「もちひかり」。
東北や北陸の有名なもち米と並んで、信州のもち米文化を紹介する際に注目したい品種です。
注目ポイント:長野県の地域産品
⑬ カグラモチ|北陸で受け継がれるもち米
石川県など北陸地方で栽培される「カグラモチ」。
北陸には、こがねもちや新大正糯など、よく知られたもち米がありますが、カグラモチも地域のもち米生産を支えてきた品種の一つです。
注目ポイント:北陸のもち米文化
5. もち米の産地が違うと味は変わる?

例えば「ヒメノモチ」は、岩手県だけでなく福島県や山形県などでも栽培されています。
同じ品種でも、育つ土地によって品質や食感に違いが生まれることがあります。
その理由には、気温や日照、土壌、栽培方法など、さまざまな条件が関係しています。
米が育つ時期の気温が食感を左右する
もち米の食感を考えるうえで、特に重要なのが「登熟期(とうじゅくき)」です。
登熟期とは、稲穂に実った米粒が成熟していく期間のこと。
この時期の気温によって、もち米のでんぷんの性質が変わり、餅にしたときの硬くなる速さにも影響することが知られています。
農林水産省も、もち米のでんぷんの性質には品種と登熟温度が大きく関係すると説明しています。
水や土壌のミネラルも関係する?
産地の紹介では「清らかな雪解け水」「ミネラル豊富な土壌」といった表現をよく見かけます。
水質や土壌条件は稲の生育環境を構成する重要な要素です。
ただし、餅の粘りやコシの差を考える際には、品種や気温、栽培方法なども合わせて見る必要があります。
例えば、同じ品種を異なる地域で栽培した場合、気象条件や米の成熟状態によって、餅の硬化特性に違いが現れることがあります。
全国のもち米を知るときには、品種名と一緒に産地にも注目してみましょう。
6. 高級もち米は何が違う?
「高級もち米」と聞くと、普通のもち米より甘くて、よく伸びるお餅を想像するかもしれません。
実際には、高級と呼ばれる理由は品種によって異なります。
例えば、新潟県の「こがねもち」は、餅にしたときの強いコシや伸びが評価されている品種です。栽培の難しさや収量の面でも特徴があり、長年にわたり高級もち米として知られてきました。
一方、滋賀県の「滋賀羽二重糯」は、きめ細かな食感や粘りのよさが特徴。高級和菓子にも使われ、長い歴史の中で評価を築いてきました。
富山県の「新大正糯」も、北陸を代表する高級もち米の一つです。
このように、品種ごとの食感や栽培の難しさ、産地で積み重ねられてきた評価などが、それぞれの高級もち米の価値につながっています。
7. もち米の意外な豆知識
なぜもち米は白く見えるの?
精米したもち米は、一般的なうるち米より白く不透明に見えます。
これは、米粒のでんぷんの構造や内部での光の散乱の仕方が異なるためです。
うるち米にはアミロースとアミロペクチンが含まれますが、もち米のでんぷんはほぼアミロペクチンで構成されています。
この違いが、見た目だけでなく、餅特有の粘りにも関係しています。
餅が冷めると硬くなるのはなぜ?
餅が冷めると硬くなるのは、水分が減ることに加えて、でんぷんが時間とともに再配列するためです。
この現象は「でんぷんの老化」と呼ばれています。
硬くなる速さは品種によって異なり、はくちょうもちやきたゆきもちのように、柔らかさが長持ちする品種もあります。
実は、早く硬くなるもち米も活躍している!
大福などでは柔らかさが長持ちすることが求められますが、切り餅や米菓づくりでは早く硬くなる性質が役立ちます。
例えば北海道の「きたふくもち」は、硬化の速さを活かして切り餅やあられなどに使われます。
品種改良では、食べるときの美味しさだけでなく、加工のしやすさも研究されているのです。
「おかき」と「鏡餅」にも歴史的なつながりがある
お正月に飾る鏡餅は、鏡開きで割って食べる風習があります。
農林水産省によると、鏡餅を刃物で切らず、槌で割ったり手で欠いたりしたことが「かきもち」の由来とされ、それが後の「おかき」という名前につながったといわれています。
身近なお菓子の名前にも、古い餅文化の名残があるのです。
8. よくある質問|もち米の歴史と産地
Q1. もち米はいつから日本で食べられていますか?
正確な始まりは分かっていませんが、餅は弥生時代には存在していた可能性があり、奈良時代の文献にも記録が残されています。
Q2. 「糯」は何と読みますか?
「もち」「もちごめ」と読みます。もち米や、粘りの強い稲の性質を表す漢字です。
Q3. 北海道でももち米は作られていますか?
はい。北海道は全国有数のもち米産地で、はくちょうもち、風の子もち、きたゆきもち、きたふくもちなどが栽培されています。
Q4. 同じ品種ならどこの産地でも同じ食感ですか?
気温や栽培条件によって米の品質が変わるため、同じ品種でも産地や栽培年によって食感に違いが生まれることがあります。
Q5. 餅が冷めても柔らかい品種はありますか?
あります。はくちょうもち、きたゆきもち、ときめきもちなどは、硬くなりにくい特性が知られています。
Q6. もち米と餅は同じものですか?
もち米は原料となる米で、餅はもち米などを加工して作る食品です。
Q7. もち米は赤飯やおこわにも使えますか?
はい。餅つきだけでなく、赤飯、おこわ、和菓子、米菓など、幅広い用途に使われています。
Q8. もち米には高級品種がありますか?
こがねもち、滋賀羽二重糯、新大正糯などが、高級もち米として知られています。
9. まとめ|日本各地のもち米には、それぞれの物語がある
古くから神様へのお供え物として大切にされてきた餅。
その原料となるもち米も、各地の気候や食文化に合わせて受け継がれ、改良されてきました。
北海道では寒さに強い品種が開発され、山形では昔ながらの伝統品種が大切にされ、北陸では高級もち米の文化が育まれています。
産地や品種に注目すると、普段食べている餅にも、いろいろな発見があります。
次にお餅を食べる機会があれば、ぜひ使われているもち米の名前にも目を向けてみてください。
甘みや粘り、コシなど、品種ごとの特徴を紹介した【全国もち米図鑑・第1弾】も、あわせてお楽しみください。


